東京高等裁判所 平成6年(行コ)7号 判決 1995年12月22日
控訴人
佐藤備三
右訴訟代理人弁護士
遠藤誠
同
黒田純吉
同
山内容
被控訴人
陸上自衛隊東部方面総監澤田良男
右指定代理人
齊木敏文
同
小濱浩庸
同
小林恭三
同
田崎守男
同
伊知地敏
同
柏木康久
同
山本孝一
同
江頭哲也
同
大當光憲
同
長木靖雄
同
田村時男
右当事者間の自衛官転任処分取消、自衛官懲戒免職処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一申立て
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対して平成元年三月一六日付でした陸上自衛隊東部方面隊習志野駐屯地業務隊への転任を命ずる処分は、これを取り消す。
3 被控訴人が控訴人に対して平成元年四月二六日付でした懲戒免職処分は、これを取り消す。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨。
第二事案の概要
次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由第二記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決五頁八行目、九行目の「効力」を「適否」に、同末行、同二三頁九行目の「効力」を「違法性」に、同八頁九行目の「その他」を「その他の」に、同三一頁九行目から一〇行目にかけての「出頭要求は弁護人選任手続終了後において」を「被控訴人は右規定に基づき弁護人を指名する義務を負っており、出頭要求は弁護人を指名した後において」に、同四〇頁四行目、同五一頁八行目の「有効性」を「適法性」に改める。
二 原判決四四頁二行目の次に、次のとおり加える。
「 この点について、控訴人は、本件転任処分は達九条所定の各事由のいずれにも該当せず、違法である旨主張する。
しかし、自衛隊員の転任が部隊の欠員補充を効率的に行い、隊務の合理的運営を確保するための重要な方策であることからすれば、自衛隊の任務遂行上必要と認められる場合には、部隊等の長は、達九条七号により適切に転任を決定することができるのであり、実際にもそのように運用されている。本件転任処分は、習志野駐屯地業務隊の欠員を速やかに充足する必要があったために行われたものであり、右達九条七号の「その他の必要な場合」に該当する。」
三 原判決四四頁三行目の「しかしながら」を「また」に、同五四頁一〇行目の「右同日」を「同年四月二一日」に改める。
第三争点に対する判断
一 次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由第三記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決五六頁の初行から六行目までを次のとおり改める。
「 被控訴人は、本件転任処分は控訴人に対して何ら法律上の不利益を与えるものではないから、控訴人には本件転任処分の取消しを求める利益はなく、また、控訴人は本件免職処分によって自衛隊員の地位を失ったから、もはや本件転任処分の取消しを求める利益がない旨主張する。
そして、本件転任処分は、陸上自衛隊の隊員(二等陸曹)である控訴人を、東京都新宿区所在の東部方面隊第一師団第三二普通科連隊(市ケ谷駐屯地)から千葉県習志野市所在の東部方面隊習志野駐屯地業務隊に転任させることを内容とするものであるから、それ自体、控訴人の身分、俸給等に異動を生じさせるものでないことはいうまでもない。また、勤務内容の点で、控訴人が不利益を被るものでないことは明らかであるし、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は当時千葉県市川市に住所を有し、同所に居住していたものであることが認められる(後記のとおり、習志野駐屯地には控訴人において右住所を変更することなく通勤することが可能であり、通勤時間も従前とほぼ同じである。)から、勤務場所の点でも、本件転任処分によって不利益を被るものではないことが認められる。
しかし、控訴人は、本件転任処分が違憲・違法のものであるから従う義務がないと主張して、これに従わず、そのために本件免職処分を受け、本件訴訟において、本件転任処分の取消しと本件免職処分の取消しとを併せ求めているものであり、本件免職処分の適否は本件転任処分の適否いかんにかかっているのであるから、控訴人としては、本件転任処分及び本件免職処分の双方につき取消しを求める利益を有するものというべきである(なお、最高裁平成三年二月五日第三小法廷判決・裁判集民事一六二号八五頁参照)。」
2 原判決五六頁七行目の「効力」を「適否」に、同六三頁末行の「図らなけれず」を「図らなければ」に、同六四頁九行目の「悪く」を「はかばかしくなく」に、同六五頁八行目の「郷土部隊」から同九行目の「定着していた」までを「郷土部隊というような施策が本件転任処分当時の自衛隊において採られていた」に改め、同六六頁六行目の「これをもって」を削り、同九行目の「原告」の次に「本人」を加え、同六八頁五行目の「規程」を「規定」に、同七二頁末行の「前記達の規定に反することをもって」を「達二三条三項の規定があるからといって」に、同七五頁五行目の「衛庭」を「営庭」に改める。
3 原判決七七頁七行目の次に、次のとおり加える。
「5 以上のとおりであるから、本件転任処分は、東部方面隊習志野駐屯地業務隊の欠員を速やかに充足し、隊務の合理的運営を確保する必要から行われたものであって、達九条七号にいう「その他の必要な場合」に該当するものであり、本件転任処分についての任命権者の裁量権の行使には特段の違法はないものというべきである。」
4 原判決七七頁八行目の「効力」を「適否について」に、同七九頁初行の「二月二〇日付の申立書をもって」を「同年二月二〇日、本件転任処分の取消しを求める本件訴えを提起するとともに」に改め、同八〇頁初行の末尾に「<証拠略>」を、同二行目の「原告本人)」の次に「及び弁論の全趣旨」を、同八一頁三行目の「弁護人」の前に「現在弁護人の選任を考えている段階であるとしつつ、」を、同一〇行目の「原告が」の次に「弁護人の選任を考え、」を加え、同八二頁七行目の「書面」から同八行目の「通知」までを「書面による弁明の機会を与えるので、同月二四日までに書面を提出されたいとの通知」に、同八三頁三行目の「同日」を「右二五日」に改める。
5 原判決八五頁三行目から同八六頁二行目までを次のとおり改める。
「(1) しかし、前記認定の事実関係によれば、被控訴人は、控訴人に対し、平成元年四月一四日には審理実施に伴う出頭要求書とともに施行規則九九条、懲戒訓令一〇条、一五条所定の弁護人申請書及び証拠調申請書の各書式用紙を送付し、控訴人に対して弁護人選任手続及び証拠調申請手続についての教示をしたものであり、これに対して、控訴人は、弁護人の選任を考えている段階であるとか、弁護人選任のための交渉をしている段階であるなどとするのみで、弁護人選任及び証拠調申請の各手続を行わず、再度の審理実施のための出頭要求、弁明書の提出通知等にも応じないまま、同月二六日付の本件免職処分に至ったものであることが明らかである。
以上の経過からすると、被控訴人は、控訴人に対し、弁護人選任及び証拠調申請の各手続を行う機会並びに弁明の機会を適法に与えた上で、本件免職処分を行ったものというべきであるから、この点に関する控訴人の主張は失当である。また、本件全証拠によっても、被控訴人が控訴人の弁護人選任を妨害したことを認めるに足りる証拠はない。なお、施行規則七四条は、その文言からして、被審理者が申し出たときは懲戒権者は弁護人を指名すべきことを定めたものであって、懲戒権者が審理を行う上で弁護人の選任を必要的な手続要件としているものでないと解される。」
6 原判決八七頁四行目の「これが」から同六行目の「この基準からみて」までを「自衛隊についてはその任務に照らし、隊員の規律保持が特に厳正に要請されるものであることからすると、規律違反に対する迅速な処理を定める右規定は相応の根拠を有するものというべきであって、」に改める。
二 以上の次第で、本件転任処分及び本件免職処分はいずれも適法なものというべきであるから、控訴人の本件転任処分及び本件免職処分の取消しを求める請求はいずれも理由がなく、右請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菊池信男 裁判官 伊藤剛 裁判官 福岡右武)